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「笹の舟で海をわたる」角田光代(#1547)

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またまた、良き作品に出会えて幸せだなーというのが読後の第一印象です。
それほどドラマチックな出来事もない、
ごく普通の女性の半生記といえるのですが
完全に引き込まれてしまいました。
昭和の前半から平成へと、主人公が生きた時代と
自分自身がほとんどの部分で被っていることも大きかった。

冒頭の春日左織、64歳。
四年前に夫は他界、すでに娘と息子も家を出て独り身。
住宅業者に案内され
義妹の風美子と共に海辺の一軒家を見学に来たところから始まります。
60過ぎて家を買うことに積極的な風美子に対して
その気持が理解できない左織。
最初から、性格の違いを表しつつ
では、そんな二人の人生とはいったいどんなものだったのか、
あくまでも左織目線で挿入されていきます。

さかのぼって、左織が22歳の時。
銀座で声をかけてきたのが風美子でした。
彼女は疎開先で左織と一緒だったと言い、
ずっといじめられていた自分に対し、よくしてくれたと話します。
左織は全く記憶にありません。
しかし、その日をさかいに二人は友人同士となり
やがて風美子が左織の夫の弟と結婚すると、
友達から義妹へとさらに絆が深まります。

おもしろいのは、この一連の流れの中
左織は常に風美子にかき回されているという意識が拭えないこと。
自分から望んだことではないのに、風美子の思う通り、
いつの間にか友人になり、義妹になり
挙句、左織の家族を我が物顔で引っ張っていく風美子。
そのことに対して嫌悪を感じたりするけど、
時には有難がったりも。
ジェラシーと羨望、左織の心の振幅が大きく、
読んでいる方がイライラさせられたりする場面も多々ありました。

良妻賢母であり、妻とはこういうものという昔からの概念を
そのまま肯定的に受け止めてきた左織に対し、
風美子は料理研究家としてのキャリアを積み
夫より稼ぎの良いキャリアウーマン。
すべてが願えばかなうと思うようなポジティブな生き方をしています。
そのスタイルだけを比較すると、
見事に戦前派と戦後派とを象徴しているともいえるのです。

そんな左織の生き方を戦後生まれの娘は否定し、
実母より「今」を生きていると感じる風美子になつき、
子供のいない風美子も姪との濃密な関係を築きます。

娘の態度については左織の肩を持ち
といって、左織の考え方にも共感できない。
ならば風美子はといえば、これまた
こんな人が近くにいたら鬱陶しいかも?と思ってしまうワタシは
正直誰にも共感を覚えないのですが
(強いて言えば、ゲイの道に走った息子くん?)
なぜか引き込まれてしまうのが不思議でした。

さまざまな価値観と共に語られる友情、家族。
さらには老い、戦争、いじめ、色んなモノが網羅され
深いなぁとしみじみ感じます。

東京オリンピックに万博。
バブル景気にサリン事件、阪神淡路大震災。
たいやき君にピンクレディにドリフにコント55号。
昭和から平成の時代背景を交えながらの
多種多様な人間模様が淡々と、かつ丁寧に描かれていて
特にシニア世代には懐かしさとともに読み応えのある作品だと思いました。
オススメです。


おまけ:
普段は本を選ぶときに参考にするamazonの内容紹介ですが
(といっても、出版社から配信されるものだとは思いますが)
今回ばかりはチト違うのでは?という印象。





by noro2happy | 2015-09-10 21:07 | book