「ロスト・ケア」葉真中顕(#1512)

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はまなか・あき さんと読むんですね。
第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
すごいすごい、とてもデビュー作とは思えない。

ちょうど文庫になったばかりのところで、
図書館が購入前に予約したら、一番に借りられた。
ラッキー。

なんてのんきな前置きしてる場合じゃない。
これはかなり衝撃的なミステリーなのですよ。
ミスリードに引っかかり
まんまと犯人を勘違いしてました。

そしてそれだけではなく、
社会派小説としてもすごくハイクォリティ。
面白いと言っては語弊があるけど
一気に読んでしまいました。
またしてもおすすめ本です。



冒頭は法定から。
『彼』に死刑の判決が下る場面から始まります。
戦後犯罪史に残る凶悪犯。
『彼』は43人もの老人を殺しました。
しかし『彼』には後悔もない。
死刑の判決もすべて予定通り。
ほほ笑みを浮かべ、むしろ待っていたかのように
判決を受け入れます。

裁判を傍聴する遺族たちも『彼』を憎みはしませんでした。
なぜなら『彼』が行ったことは究極の介護、
ロスト・ケアだから。


いやー、考えさせられた。
テーマは「少子高齢化」と「介護問題」。
様々な人が別の立場から介護に関わり
その視点の違いが、いろんな問題を浮き彫りにしていきます。

至れり尽くせりの超高級老人ホームに入る人。
在宅介護で心身をすり減らす人。
介護保険制度が出来て、かえって働きにくくなった現場のヘルパー。
高齢者をだまして振込詐欺をはたらく人。
そこには老人をめぐるえげつないほどの格差がありました。

どうにもならない社会のひずみや
ねじれといったものに答えを出せずに
読後感は必ずしもスッキリというわけにはいきませんが
決して他人ごとではない怖さがじわっときます。
説得力ある言葉と客観的な文章がリアルすぎるほどリアルですが、
目を背けちゃいけない。

平均寿命が伸びる中
「人が死なないなんて、こんなに絶望的なことはない」。

高級老人ホームのフロントに掲げられている聖書の一節
【人にしてもらいたいと思うことは何でも
あなた方も人にしなさい】
黄金律というそうですが(詳しくは本書の中で)
この解釈がこれまた深い。



本書を読んだあと、ワタシは自分のブログから
「介護」のタグだけを抽出してすべて読み直しました。
自分でも意外なほどその数は少なかった。
本当に大変だったことはあえて書いていないせいもあるけど。

極力面白おかしく書いてある文章の行間には
自分だけが分かる隠した言葉が読み取れる。
いまだに罪悪感は消えません。
思い出したら涙が出てきた。
もっとああしてやればよかったと思う。
でもとにかくあの時代が終わってくれてホッとした。

近い将来また再びそんな日が来るのかもしれない。
義父母はまだ健在だから。

本書の中で、ある遺族は、
「自分が母の死を望むような人間ではないことを証明するために、
本当は救いだった『彼』から得た死を、あえて無念と言い換える。
これは死して尚、自分を縛る母の呪いだと思う。
そしていつか自分も呪いで息子を縛るのだろうか。。。」と。

この部分すごく共感を覚えた。
そうなのです。
ワタシは息子には絶対そんな思いをさせたくないと思う。

40年後の日本では、現役世代一人が
高齢者一人を支える「肩車社会」に突入するそうです。


おまけ:葉真中作品の2作目「絶叫」も予約しました。
残念ながら100数人待ち。(>_<)
業界でいうところの2作目のジンクスを裏切り
こちらもデビュー作を上回る出来快進撃だそう。







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Commented by kiraln at 2015-05-29 13:59
読了ですっ(^'^)
ノリさんのおっしゃる通り
新人とは思えない筆力で引き込まれちゃいましたよ。

人となりを織り交ぜながら語られる展開で
ページをめくる手が止まりません。
根底に宗教があり物語にまとまりというのか
ブレない芯が出来たように思いました。

佐久間と大友、相反する感情で成り立っているのも
興味深いですね。
大友にとってのロングパスも佐久間にしていればただの偶然。
そしてUSBから名簿流失詐欺を見つけるところを
死者からのロングパスと解釈した大友のおめでたさが
(佐久間は大友のシマ荒らし目的だったのに)
安全地帯の人間そのもので
犯人の男の心の闇にたどり着くことはできないでしょうね。

ワタシはこちらの作品の方が
人間の裏表まで描かれていて好きだったかな。
ノリさんはどちらがお気に入りですか?


読み応えのある作品でした。
発行が楽しみな作家さんがまた一人増えてました。
面白い本を紹介いただきありがとうございました<(_ _)>
Commented by noro2happy at 2015-05-29 19:50
★キラリンさま
おおっ!熱いコメントありがとうございます!!
この方ほんとうに楽しみですよね。
筆力がすごい。
どっちがお気に入りか問われますか・・・
うーん、難しいね。
甲乙つけがたしですが、「ロスト・ケア」は自分の体験を思い出し、ちょっと痛い部分もあったりしたので
完全に他人ごととして読めた「絶叫」ということにしておきます。
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by noro2happy | 2015-03-09 20:50 | book | Comments(2)